第1話 お菓子な君に恋をした

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. 成程……。それで焦っていたのか。 すかさず俺の手を止めたのは、彼女の冷たくて小さな手。 小さいのに意外な程に力がこもっていて、まずそれに驚いた。 「……このケーキ、売れ残ると捨てないといけないんだ。」 「え……?」 「だから、この4つは……おまけだよ。」 どうせ捨ててしまうものだったら、こうして誰かに貰ってもらったほうが良い。 きっと相手が彼女でなくても、俺は同じように振舞っていたと思う。 すると、彼女は分かり易い程に顔を綻ばせ、頬を赤く染めながら笑顔で応えてくれた。 「……ありがとう。いただきます。」 それから会計をしていると、彼女は小さな声で俺に話しかけてくる。 その表情は、ついさっきとは打って変わり、どこか落ち込んでいるようにも見える。 「……今日学校で、友達と喧嘩しちゃったの。」 「え?」 「だから仲直りの印に、今からこれ持って謝りに行ってきます。」 俺が手渡したケーキの箱を受け取り、真っ直ぐな視線がこっちを向く。 仲直りの印……か。 たったそれだけの言葉の中に、この女の子はとても素直で優しい性格なのだと、想像がついた。 .
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