夏休みと荒波水面。

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『荒波家の負が呼んだ復讐者が、住民の半数を占めているからであろう。半年前から集まり出したと聞くが、実際はどうなんだろうな』 「わたしに関係ないじゃない」 『それならば、外の喧騒はなんだろうな?」 荒波水面は耳を澄ました。削れた怒号に肩を跳ね上げる。遠方から聞こえたのは今まで一度も耳にしたり、知らなかった声だ。なのに近親感さえ覚えて仕舞う感情に眉を潜めた。 股に置いた手が鈍く痛む。真っ赤に熟れたトマトのようでいて痣が病気を患っているようだ。疫病に犯された果実、果汁が絞られていた。包帯の隙間から晒された断片に生唾を呑み込み、痛みが増した要因に一息流す。 握ろうとしたのだ。恐ろしくて拳を握りたくなったからだ。荒波水面は病院内に浸透した声の根元がなにか理解したのである。心の中で固めに固めた殺意と敵意を溢れさせた声だ。解され瓦解した声だ。 戦慄が走り、背筋が凍る。それに冷ややかにナースはカセットレコーダーのボタンを押し込んだ。 『砕き嬢を見付ければ、集団で、容赦なく殺されるであろうな。純粋に、殺される。幾人にも、蹴られ殴られ罵倒される。一身に受け止めれる訳がないのだが、それでも逃げないのならば、身共は止めはせんよ』 「……っ。う」 考える。悲鳴がまた一つ荒波水面を殴った。怒号が頭を蹴り飛ばす。荒波水面は苦渋に変形した顔で左顧右眄。悩みあぐねる限りである。逃げるしかないのだが、向けるべき相手が存在する誰か達に心が許さなかった。
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