夏休みと荒波水面。

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「酷いわ、なんでなのよ。なんでなのよ! わたしは、わたしは黙るしか出来ないのに、なんで、黙っていないのよッ」 激昂した直後に、人影が角を曲がり、此方に顔を向けた。顔と言えるものではない。腰を少し落とし、手に物々しい銃器を携えた黒い人間だ。防弾チョッキを着込んだ性別も分からぬ人間達は周囲に銃口を向けた後に「クリア」と言う。 腰を浮かした姿勢で荒波水面は睨み付ける。目が透過しないガスマスクは不気味で、息遣いが耳の中に燻る。 「荒波水面を発見しました。これより脱出までの護衛任務に移行します」 まるでそれこそ特殊部隊である五名の内三名が荒波水面を忽ち囲んだ。目を駆けさせ、一番距離が近い人間に的を定める。 「なんなのよあんた達は!」 答えはない。返答なく自己の進行速度を保ち言葉を端的に交わす。 「脱出ルート確認、脱出までの道のりは暴徒が塞いでいると別動隊から報告されています」 トランシーバーから絶え間なく情報が放出され、部隊長らしき人間は声色に変化なく決断した。 「屋上にヘリを回せ。暴徒はデバイスを使用している可能性が高い。誰であれ即座に射殺せよ」 腕を捕まれ、強引に引っ張られた荒波水面は廊下を走る。先行する数名の前に人が現れたが、乾いた音の後に崩れた。呆気なく、眼鏡型のデバイスが床に転がった。短い悲鳴を上げ、足が硬直した荒波水面に気に止めず引き摺り進む。
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