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綺麗だなと足を止めた時に転けた。だから不可抗力でも花壇を全力で横断したのだ。新品のローファーに付いた土を見て、艶めきのなさに嘆いたりもして、花壇なんぞ意味はない、所詮花と言う枠組みの雑草が生えているだけだと無駄に見くびってみたり。とにかくその女子は酷く落ち込んだ。
若い身空で人生を棒に振った、寛大な心を持って許してはくれないか、さてはこれは貶める罠なのではと極端に目を光らせてみる女子。数秒後肩を落とした。
どんなに逃げてもローファーの足跡がこれでもかと花壇には刻まれていて、目撃者も両手では数えられない。逃げ場のない失敗。言い訳もないし良い訳もない失態。失望された。今までまだ普通に生きてきただろうに、道を文字通り踏み外した懺悔を神に聞かせたいとまで無神論者でありながら考えを巡らせる。
花壇を見てから目を背けた女子の名前は荒波水面――あらなみみなも――と言う。入学してからまだ日の浅い荒波水面の事を知る人物は少ないが、名前自体なら売れに売れている高校生だ。
荒波はやっぱり違うな。そんな声が微かに鼓膜を揺らした。荒波水面は俯き、拳を握る。
殺意と敵意を誰に向ける事もなく十五年間生きてきたのだが、まさかこんな形で誤解されるのを納得出来る筈がなかった。荒波水面は歯を擦り合わせ、顔を上げる。鋭利に光らせた強気な瞳は誰が言ったのかと注意深く発言者を探す。
荒波水面は周辺に気を配らなかったので横で花壇を見てからローファーを見て、肩を竦める人間には気付かない。
「水面ちゃんがやったとは信じれないね。でも実際はしているんだから、信じるしかないかな」
脊髄反射で発言者に顔を弾いた。荒波水面の横に立っていたのは癖のない黒毛をした、澄ました顔が原因で一見外国人を思わす男子だ。荒波水面の知り合いであり、入学当初から奇妙な縁で良くしてくれた先輩でもある。
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