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都季は朝餉を終えると、調理場を覗いた。
早朝から稼働しているにも関わらず、調理場は未だ安息が許されぬらしい。ひたすら椀へ汁を注ぐ下女、二人一組で飯をよそう下女、鍋を洗う下女……。
熱気のこもった調理場は、せわしい空気に満ちている。
「あれ、都季ちゃん」
辺りを窺っていると、シノと目が合った。
向かった細長い作業台には膳がずらりと並んでおり、シノの手には持てる限りの杉の箸が束になって握られている。
「どうしたの?」
都季は土間へ降りた。
「料理長は居ないの?」
「料理長なら――」
シノは勝手口の近くにある竈に迷わず顔を向け「あれ?」と首をめぐらした。
おそらく先ほどまでそこに居たのだろう。
都季は、不在ならばそれでかまわないと思った。
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