第26話

12/40
前へ
/40ページ
次へ
都季は自室に戻ると、深いため息を吐いた。 保釈金に大枚をはたいた故、懐が寒いのだ。娼妓は金がなくても食ってはいけるが、衣装や化粧品を買い揃えるには金がいる。 しかし、自らの買い物を控えれば、ハナエとセツに責任者就任、女長就任の祝いの贈答品を買ってやれるかと思い、午を過ぎた頃に内証を訪れた。 「買い物に行きたいだと?」 家長は文机に置いた許可証申請用紙をねめつめ、腕を組んだ。 遊郭を出るには、女将か家長の捺印をいただいた申請用紙を郭署に提出し、許可証を発行してもらわねばならぬ。 「はい」 「しかし、先日の事件から日も浅い。郭署の許可がおりぬであろう」 先日の事件とは、小梅の出奔のことである。 「郭署が発行してくださらぬなら諦めます」 「ふむ」 家長は「ならば好きにするがよい」と捺印したが、おそらく叶わぬであろうと考えているのが、声にあらわれていた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加