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しかして都季は雪美館に戻り、内証を訪れて家長に供の下人を欲する旨を伝えた。
家長は得難いと信じていた許可証の発行を驚いた筈だが、都季にそれを見せることはなかった。
そこへ、折悪しくカヨが家長に茶を運んできた。
カヨは都季の言葉を全て聞いていたようであった。
「家長様。私が都季様のお供をしてもよろしいでしょうか」
カヨは文机に茶杯を乗せると、厚かましくも家長にそう言った。
都季は家長が反対してくれることを望んだ。
カヨが自分を慕ってくれるのは判るが、セツを見下したカヨを好きになれぬのである。
しかし家長は都季の心に寄る体(てい)など見せず、ただ「良かろう」と呟いただけであった。
***
「ハナエ様」
下舎に与えられた自室で下女の人事記録を見つめていたハナエは、廊下からのセツの声に顔をあげた。
「お入り」
膝まずいて障子を開けたセツの顔が曇っている。
障子を閉め、ようやく眼前で座して一礼したセツを見届けると、ハナエはつい思ったことを口に出した。
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