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宵の娼家は部屋付きにとって、もっとも忙しい時間帯である。
次から次へと訪れては去る娼妓部屋の敷布を代え、娼妓の化粧直しを手伝っては、酒肴を運び、泊まり客の着替えを用意しては、引いてきた器を洗う。
セツは、責任者となったハナエとともに部屋付きを動かしつつも、己が担当する上級女の部屋を巧みに流していた。
都季は今宵、座敷館に出向いている。
客は偉進である故、泊まりの支度をしておかねばと都季の部屋に向かうと、無人である筈のそこの襖が勝手に開いた。何故か、カヨが都季の部屋から出てきたのである。
「カヨ……?」
セツは眉をひそめた。
「あ、女長。都季様の部屋は、もう泊まりの支度をしておきました」
カヨは悪びれぬ顔で、はつらつと言った。
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