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ついに一階担当の部屋付きも頭にきたらしく、ある日の午過ぎ、セツが厨を訪れると、娼妓の湯呑みを片付けていた四人の部屋付きがセツになじり寄った。
「女長。何故カヨに注意しないんですか!」
「そうですよ。何故、私達が新人に愚弄されなきゃいけないんですか」
「女長が甘いからカヨがつけ上がるんじゃないですか?」
セツは耳が痛かった。
自分の甘さはよく判っているのだ。
しかし、自分には前女長のような畏怖が備わっておらぬことも、よく判っているのである。
「必ずや対処しますから」と、口にしたとき、暖簾の隙間から廊下を見た部屋付きが「し!」と、唇の前で人指し指を立てた。
「何?」
「何があったの?」
「カヨ?」
「静かに!」
妙なもので、部屋付きらは憤っていたことさえ忘れたかの如く、好奇心旺盛に暖簾の前へと急いでいる。
「うわ、カヨだ」
「カヨは誰と話してるの?」
「都季様じゃない?」
「静かにしてって言ってるでしょ」
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