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セツも、都季の名を聞いてはじっとしていられず、また部屋付きが「女長」と、居場所を空けてセツを招いてくれたのもあって、暖簾の隙間に顔を近付けた。
上がり口にいるカヨの顔が見えた。
都季は階を降りてきたところか、厨からは角度的に見えぬ位置にいるらしい。
耳を澄ますと、カヨの驕った声が聞こえてきた。
「都季様にこんなことを話しても仕方ないことですが、私は女長が上級女の世話を担当するという慣習に縛られる事は無いと思います。女長には家長様の信頼もないですし」
セツは息を飲んだ。
自分がおらぬところで自分が悪評されているのだ。
ことさら息をひそめた部屋付きらが、しかして都季が、カヨの言葉をいかに受けとめるのかと思うと、カヨを黙らせてやりたかった。
しかし、セツにはこの場面で出ていく勇気などなかった。
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