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セツの右にいた部屋付きが「何なの、あの子」と怒りを吐き出して厨の奥に戻った。
それに連なり、他の三人も屈めていた体を起こして奥へと逃れるので、セツも立ち聞きを悟られぬよう暖簾から離れた。
「部屋付きにしか判らないことって何よ。お前のほうが何も知らないでしょって」
「そうよね。前の女長が辞めさせられたのは代筆のせいだっていうのにさ」
「あの子、どうしてあんなに偉そうなの?」
「さあ。洗い女から部屋付きに昇進したから、能力が認められたって自信があるんじゃない?」
部屋付きの一人は、作業台上の籠に入った酒杯や器の水分を綿布で拭きはじめた。
一人は、それを棚に片してゆき、一人は燗炉に炭をくべ、一人は開店に備えて今宵使う器を作業台に出している。
一見には、ただの雑用をこなしているばかりに過ぎぬのだが、しかし彼女らは"誰が何をして"と、お互いに話し合わずとも、各々すべきことを直ちに見つけ、仕事をはじめているのだ。
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