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下女は敷布洗いから順に持ち場があがる故、むろんセツも洗い女の時代があった。セツは己の経験で椿油をお髪用と述べたが、今は肌に使用できる良質の椿油があるのだ。
カヨは鼻で笑った。
「失礼ですが、女長はいつの時代の話をされているのですか。混ぜ物を加えた椿油の事ですか?」
セツの眉間に深い皺が寄った。
「上級女の方々が使われている椿油はすべて純粋なもので、都季様もそれを持っておられます。いくら女長と言えど、香油のような贅沢品を買える給金は頂いておらぬでしょうし知らぬのも仕方ないですが、知らぬなら勝手に選ばず洗い女に任せればよいのです」
カヨは、都季が給仕女の頃、髪の束に使用されている香油は何かと問われて答えられなかったことから、香油に関して深く学んだ。香油の知識ならば誰にも負けぬと自負している。
紅を買いに行った見世では都季に叱られてしまったが、これによって再評価してくださると思うと痛快であった。
しかしである。
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