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客は娼妓の心など無視して娼妓を抱くことが出来る。金さえ出せば己の望むがままにしてもよいのだと考える輩に、横暴で手前勝手な欲望を吐き出されるのが娼妓である。
偉進もそうすればよかったのだ。かねてより何事も金で片付けてきたではないかと思った。
今の言葉は、先ほどのやり取りを思い出せば、偉進以外の男に惚れた都季を抱く気にはなれぬということである。都季の心を尊重したのだ。
都季は確かにそれを望んだ筈であったが、何故か重苦しい圧迫が息を詰まらせ、喉が熱く燃えた。
「旦那さ……」
「心配せんでも花代は泊まり分払ってやる。……じゃあな」
偉進は襖の向こうに消えた。
廊下を踏む荒い足音が、いつまでも耳に粘りついた。
***
調理場に王燕という副料理長が配属され、朝昼夕の献立がいささか変わった。
かねて料理長がこしらえていた主菜を、日替わりで副料理長が担当するようになったのだ。
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