第28話

3/38
115人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
醜い嫉妬だと、くだらぬ優越感だと判っているが、もし今、紹彩志が再び身請け話を持ちかけてくれたならば、燕麗の実家で奉公している両親のことなど忘れ、ありがたくお受けしてしまうのではと思われるのである。 やがて空は茜色から藍色に染まり、既に卓に酒を並べた部屋へ偉進が訪れた。 「なるほど。あらかじめ来ることを報せておけば、俺の好物が出るか……」 卓の前に胡坐した偉進は酒を注ぐ前から、家鴨を香草で焼いて一口の大きさに切ったものを、指で一つ掴んで口に運んだ。 「やはり家鴨がお好きでしたか。料理長に家鴨があるか訊ねてみましたら、あると仰いましたので料理していただいたのです」 銚子を取ろうとすると、偉進が都季の顎を力強く持ち上げた。 「痛……、何をなさるのですか」 偉進は咀嚼しつつ、探るような目で都季を見つめている。飲み込んでから、ようやく口を開いた。 「どうも気にいらん」
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!