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心からそう思った訳ではない。偉進が幾度も自分を助けてくれたことはよく判っている。上級女披露宴も偉進がおらねば開催出来なかった。都季の今の座は、まさしく偉進が築いたものである。
故に、歯がゆかった。
都季は偉進を手放したくないが、偉進は気まぐれに都季を捨てることが出来るのだ。
不安定なものにしがみつく心細さを偉進は知らぬ。都季と偉進は決して対等ではない。
「そうか……」
偉進は体を起こし、寝台から降りると、都季に背を向けて崩れた着物を正した。
行灯の淡い明かりに照らされた哀れな背中は、都季を拒んでいるようにも見えた。
都季は肘をついて、やおら起き上がった。
寝台の軋む音色がやけに余韻を引きずり、閨房の静寂さを際立たせた。
衣ずれの音が響き、偉進の振り返る気配を感じた。
しかし、偉進は振り返らなかった。
「娼妓でない女を抱く気にはならんのでな。帰らせてもらう」
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