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怒りに震える拳を握った。
都季を見捨てるつもりなどない。
しかし、その代償は大きい。
「此度だけだ」
怒りを吐き出し重ねた。
「この事実が明るみに晒された時、そなた、治部官、蘭の誰かが罪を認めれば、私も罪人へと堕ちるのだ。それを胸に刻んでおけ」
背中の偉進に聞かせるよう、わざと大きな声で言った。
左議側である偉進に、我々は運命共同体であると聞かせねばならなかった。私を貶めようとすれば、お前も道連れにしてやる、と伝えたつもりである。
「彩志様……」
都季のすがるような声が耳に逆らった。
「すまぬが……。そなたの顔は二度と見とうない」
くずおれた悲痛な嗚咽を背中で聞いた。
それは重くのしかかってくるようで、逃げるようにその場を去った。
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