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雪美館の上級女は八名。
この八名は年度毎、売上金によって順位が入れ替わるが、一番娼妓という箔はその名ばかりでも客を寄せる故、ひと度それに就けば、退く以外は不動の地位と呼ばれている。
二番娼妓の華蘭(からん)は、深く息を吸い込んだ。
娼家の広間は、集められた全娼妓が詰め合い、その体温と呼気で蒸している。
今から家長の発表がある。
家長の隣に控えたハナエは、巴林石(ばりんせき)の印を収めていると思われる桐の箱を大事に抱いており、その隣ではセツが絹布(けんぷ)で覆った盆を持して畏まっている。
巴林石の印は、一番娼妓に代々贈られているものである。
セツの持す盆には、おそらく銀の箸が乗せられているのであろう。銀の箸は、新上級女に贈られるもので、持ち手部分に上級女の名が彫刻されたものである。
つまり、現一番娼妓が退き、新一番娼妓と新上級女が発表されるということである。
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