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巴旦杏は、杏、桃に似た果実であるが、果肉は薄く食用とせぬ。食用にするのは種子で、煎るか揚げたものを食すのだが、これは南の国との交易によってしか手に入らぬもので、これを料理に使う者は珍しいと言える。
斎自身、巴旦杏を煎って塩をまぶしたばかりの食方は存じていたが、巴旦杏が料理に使われているのは雪美館でしか見たことがない。
「主。朝餉をこしらえた者を呼んでまいれ」
斎は、旅籠の主に命じた。
治部官偉進を徹底的に叩いてやると思った。
しかし、それを呼びに行った筈の主は一人で戻ってきた。
「申し訳ございません。朝餉をこしらえた者は、祭りの料理番で他所の土地から来た者だったのですが、本日の料理を全てこしらえたので既に帰ってしまったと……」
主は、申し訳なさそうに平伏した。
「ふむ。さようか……」
村を立ってしまったのでは仕方ない。
やはり、土地の者では無かったかと納得した。
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