第34話

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蘇雲は養子を迎えて副長官職を辞するつもりらしいが、候補は二人いるらしく、どちらにするか未だ決めかねていると噂で聞いた。 父が自ら『私の息子』と上機嫌に紹介したのは、何故であろうか。 偉進は気持ち悪さを感じつつも、二人に歩み寄った。 「そなたが納品独占権一位を獲得したとかいう本町薬店の当主か。私は蘇雲だ」 「存じ上げております。蘇副長官」 偉進が低頭した折、故人を追悼しているとは思えぬ賑わしい音曲が遠くから聞こえてきた。 この国では葬儀に集まる人々が多ければ多いほどよいとされ、追悼の舞に駆り出される宮廷専属舞師は百名をくだらぬという壮観さである。その人数で描かれた三重の輪が大きく小さくなりつつ琴、笛、太鼓の音にのって舞われると、やがて皇帝の追悼の詩が詠まれる。 盛大な葬儀だが、弔問客の中に第一皇子の死を心より哀しんでいる者は、ほんの一握りしかおらぬであろう。おそらく九割は、彼の死によって差し響く己の立場のことしか頭に無く、偉長官と蘇副長官も正しくその口である。
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