第34話

シノは、斎家の調理場をしげしげと見つめた。
雪美館の調理場では、作業台が中央に置かれていたが、ここは竈の傍らにある壁沿いの卓で作業するらしく、二人がようやく立ち並べるほどの広さしかない。つらつら思えば、ここの主は斎一人、下人はシノを含め八人。こしらえる料理は九人分でよいのだから、これしきの広さで十分なのだが、十人居ても悠々と作業出来た雪美館の調理場を思い出すと、ここは狭く思われて仕方ない。

「ねえ、あなたは旦那様の妾なの?」

粥をこしらえていた娘が、シノに訊いた。
彼女は、シノより二つ三つ年輩で、昨夜の年老いた下男の案内で調理場を訪れた折から、ずっと何かを問わんとしていたのだが、ようやく心を決めて口を開いたかと思えば、はなはだしく見当外れの問いである。

井戸で洗った青菜を運んできたところであったシノは、仰天した。