第34話

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「旦那様はお出かけになられたから朝餉は要らないわ。私達の朝餉は卯の下刻に間に合わせるように」 紫音が去ると、宗蘭は「ああ、恐ろしかった」と安堵の吐息をついて胸を押さえた。 暁を告げる鶏鳴(けいめい)が響きはじめたのは半刻ほど前のことで、空はようやく白みはじめた頃である。調理場はまだ薄暗く、明かりを要する時間帯だ。 「宗蘭さん。副長官様はかように朝早くから出てゆかれるのですか?」 シノが問うと、宗蘭は「何かあったときだけよ」と答えたのち、周りには誰も居らぬのに声をひそめた。 「先ほど、旦那様の部下が報せを持って来たのよ。何事かと思えば、とうとう第一皇子様が亡くなったそうよ。刑部が推しているのは第二皇子様でしょ。旦那様はお忙しくなるんじゃないかしら」 宗蘭は、さも当然のように話すが、刑部が第二皇子を推しているなど初めて耳にする話である。
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