第34話

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政(まつりごと)と遠いところで生きてきたシノには、なかなか浸透してこぬ話であるのだが、次第に熱を帯びた口調へと変じた宗蘭は、同意しか求めておらぬ。解らずとも頷いておく。 ひとつ解ったのは、刑部と治部は敵同士だということである。 綾の上客が刑部長官。 都季の上客が治部官。 二人の因縁は、お互いが気付かぬような深いところまで深く根を張っているように思われて仕方なかった。 *** 第一皇子薨去を報せる空砲が、秋晴れの空に響き渡ったのは、葬儀の手筈がすべて整ってからのことである。 祭祀を取りしきる治部は、霊堂(式場)である廟(びょう)の設営に丸一日を費やした。 廟は祖先の霊を奉る堂で、外廷にある。 朱塗りの柱と壁に乗せられた荘厳な屋根は、ゆるやかに反った入母屋造り。一度に百人ほど詰められそうな広さがある堂の中央奥に棺を安置しており、棺の周りには、幾万本、幾十万本とも判らぬ数の花々が豪華に飾られ、供物の野菜、果実もたくさん盛ってある。
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