第34話

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堂の両脇には長机を並べてあり、弔問客が酒肴を喫する場所を設えてあるが、その席は重臣らが埋め尽くしてしまう故、廟の外に敷物を敷き、天幕を張り、多くの客が座せるようにした。 偉進の父である治部長官は、屋根のある門をくぐったところで、弔問客が持参する供物を記録している官吏とともに受付をしていればよいだけだが、しがない治部官である偉進は、天幕と天幕の間を往来して弔問客の酒肴がきれているところはないか、隈無く探さねばならぬ。 先ほど、左議が霊堂に入らんとした折、入口で第三皇子の祖父である王大臣とたまたま鉢合わせたのを偉進は見ていた。 左議は既に第三皇子を擁立せんと動きはじめており、二人は幾度も密談で顔を突き合わせている筈だが、さような素振りは互いに見せず、第一皇子を追悼する顔で目礼だけ交わし、霊堂の奥へと身を投じた。 折しも、喧騒に紛れた声を拾った。 「領議様さえ戻られたならば……」
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