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「きゃぁああっ!」
廊下の拭き掃除を終え、調理場に戻って来たシノは、井戸の傍らの光景を目にして立ちすくんだ。
楊爺が血の海に伏せていたのだ。
はっと首を回した斎の目は、シノを見るや否や、いつにも増して冷たい色を放った。
「旦那様!」
刹那、紫音が斎を呼び止めるような声を張った。
しかし、その声は届かなんだらしく、斎は苛立ちを踏みしめるような足でシノに詰め寄った。
「旦那様! どうかお助けください! シノに罪はございません」
再び、紫音が声を張った。
助命を哀願するかに聞こえる声は、枯れきっている。
まさか、自分も殺されるのではないかと感じ、シノは震える足で後ずさった。
「お前が治部に告げたのか」
「あの……何を仰ってるのか……わ、判りません……」
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