三、四が抜けて五にマナー

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僕「ご機嫌よう鈴木さん」 鈴木「おはようございます社長。今朝は嫌に爽やかですね」 僕「この前受けたマナー検定が癖になってね、結局段位まで取得してしまったよ」 鈴木「本当に極端な方ですね。そんなところも気持ちわ……、えー、今日のスケジュールですが」 僕「待ておい。今何て言いかけた。“気持ちわ”の後、何を飲み込んだ」 鈴木「社長、言葉使いに段位の欠片も見受けられませんが」 僕「貴様に示すマナーなど無い!」 鈴木「暴言もそこまで清々しく吐かれると、いっそ痛快です。心が洗われます」 僕「では、正直に聞かせてもらおうか」 鈴木「ええ。先ほどは、“気持ち分かるー”と言いかけて止めたのです。社長にこのような無礼なお言葉を向けようとしていた自分が恥ずかしい」 僕「くっ、綺麗に躱してきやがった。何が心が洗われるだ」 鈴木「ところで、今日のスケジュールなのですが」 僕「ああ、そうだったな。すまない、続けてくれ」 鈴木「まずは、その伸びた鼻毛を切っていただきます」 僕「あのさ、面と向かって言いにくいからってスケジュールに織り交ぜてくるのやめて。おじさん、逆に傷つく」 鈴木「社長レベルになると、その鼻毛さえも社長待遇ですから」 僕「毛なんか社長待遇しなくていい」 鈴木「そうですか。では課長」 僕「待て、僕のことは全力で社長待遇しろ。敬え。何、お前にとって僕は毛と同等か?」 鈴木「そんなことは毛ほども思っておりません」 僕「常々思うが、お前の心臓には立派な毛が生えてるんだろうな」 鈴木「光栄です」 俺「褒めてねえよ……ほら、切り終わったぞ」 鈴木「若干剃り残しはございますが……、では、出張の準備に取りかかっていただきます」 僕「出張? そんな予定あったか?」 鈴木「急ぎで一件入りまして」 僕「ふーん、で、どこ行けば良いの?」 鈴木「開発予定地域の建物への立ち退き勧告なのですが」 僕「うん」 鈴木「マナー検定会場へと向かっていただきます」 僕「りありぃ!? え、取り壊すのあそこ!?」 鈴木「非常に残念ではありますが」 僕「まじかよ。まさかの展開だな」 鈴木「時間もおしておりますので、剃り残しの鼻毛は現地で処理の方をお願いします」 僕「とんだマナー違反!」
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