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煌びやかなネオンの輝く夜の街。
その一角に在る高級クラブの店先に私は立っていた。
「楽しかったよ鈴(リン)。また来るからね。」
「はい、木戸さん。私も楽しかったですよ。
また、ゆっくり お店にいらして下さいね。待ってますから。」
お決まりの台詞の遣り取りの後、エレベーターの扉は閉まった。
「鈴さん、お疲れ様でした……って大丈夫ですか?」
思ったより酔ってるな。
店に戻ろうと踵を返すもフラつく足元。
崩れかける身体を黒服の男に支えられる。
「有り難う。大丈夫、ちょっと酔っただけだから。指名入ってるし…戻らないと、ね。」
「駄目ですよ。鈴さんはNo.1なんですから、ちょっとくらい我儘言っても平気っすよ。
俺、店長に言っておきますから、鈴さんは少し休んで下さい。」
「ふふっ…有り難う、惣(ソウ)ちゃん。
じゃあ、お言葉に甘えるけど、何かあったら呼んでね。」
そう言い残し、私は控え室に向かった。
部屋に入れば私一人。
勿論、店は営業時間中だから当然なのだが、此処だけが静かな空間なのが酔って朦朧とする私には心地良かった。
何も考えず、無造作に置かれたソファに身体を沈めた。
多少 埃臭くても、ソファの適度な柔らかさは私の身体から仕事に戻ろうという気力を奪っていく。
「ヤバッ、眠くなってきた……」
ズルズルと身体は滑り落ち、ソファの肘掛けに頭を乗せていた。
「寝ちゃ駄目だっ…て、指名入って…るんだ、から……。」
抵抗虚しく。
私は酒に朦朧となりながら眠りに着いた。
深い…
深い眠り……
自分であるようで、
自分でない。
そんな不思議な感覚。
そして私は夢を見る……
いや、夢に……堕ちていく。
「とし…ぞ……さ、ま ………」
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