珀華楼の新造(ヒャッカロウ ノ シンゾウ)

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◇◇◇◇◇◇ 「嫌やッ!!」 「これ!お待ち薫風ッ!!」 「嫌なモノは嫌って言うとるだけやッ!!」 廓(クルワ)を縦横無尽に走り回るのは、まだ あどけなさの残る一人の新造(シンゾウ)。 女将や男衆が捕まえようと追い掛けるが、幼き頃よりこの廓に居る薫風は この建物の中を知り尽くしていた。 捕まりそうになってもヒラリ ヒラリと交わし隠れて逃げ回る。 新造・薫風に、周囲はいつも 手を焼いた。 「そんな我儘許しまへん! あんたの水揚げは決まったんどすッ!!」 「あんな “ 新造買い ” の爺さんの相手なんか嫌やッ!!」 「爺さんだから、何もかんも弁(ワキマ)えとるんやないか!」 「それでも嫌なんやッ!!」 茹で蛸の様に顔を真っ赤にしながら怒る女将に、振り向きながら「ベーッ」と舌を出している薫風。 そう、彼女は前を見ていなかった……   ドンッ! 「ひゃッ!?」 「痛ぇな…。何だって餓鬼が走り回ってやがるんだ?」 見事に客とぶつかり尻餅をついてしまった薫風は、痛そうに自分の尻を撫でている。 廓の者達は これ幸いとばかりに一気に薫風を捕まえに掛かる。 「なッ!? 離せぇ~! 嫌や!嫌やぁ~!ウチはあんなシワシワの爺ぃの相手なんか絶対嫌やぁッ!!」 捕まえようとする男衆が必死なら、捕まれば後がない薫風も逃げようと必死。 これだけの騒ぎを起こし、あまつさえ客にぶつかるなどという失態を犯しているのだ。 「折檻」される可能性も十二分にあった。
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