173人が本棚に入れています
本棚に追加
◇◇◇◇◇◇
「嫌やッ!!」
「これ!お待ち薫風ッ!!」
「嫌なモノは嫌って言うとるだけやッ!!」
廓(クルワ)を縦横無尽に走り回るのは、まだ あどけなさの残る一人の新造(シンゾウ)。
女将や男衆が捕まえようと追い掛けるが、幼き頃よりこの廓に居る薫風は この建物の中を知り尽くしていた。
捕まりそうになってもヒラリ ヒラリと交わし隠れて逃げ回る。
新造・薫風に、周囲はいつも 手を焼いた。
「そんな我儘許しまへん! あんたの水揚げは決まったんどすッ!!」
「あんな “ 新造買い ” の爺さんの相手なんか嫌やッ!!」
「爺さんだから、何もかんも弁(ワキマ)えとるんやないか!」
「それでも嫌なんやッ!!」
茹で蛸の様に顔を真っ赤にしながら怒る女将に、振り向きながら「ベーッ」と舌を出している薫風。
そう、彼女は前を見ていなかった……
ドンッ!
「ひゃッ!?」
「痛ぇな…。何だって餓鬼が走り回ってやがるんだ?」
見事に客とぶつかり尻餅をついてしまった薫風は、痛そうに自分の尻を撫でている。
廓の者達は これ幸いとばかりに一気に薫風を捕まえに掛かる。
「なッ!? 離せぇ~!
嫌や!嫌やぁ~!ウチはあんなシワシワの爺ぃの相手なんか絶対嫌やぁッ!!」
捕まえようとする男衆が必死なら、捕まれば後がない薫風も逃げようと必死。
これだけの騒ぎを起こし、あまつさえ客にぶつかるなどという失態を犯しているのだ。
「折檻」される可能性も十二分にあった。
最初のコメントを投稿しよう!