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男衆達は、髪を引っ張ったりはするが 商品である薫風を傷付けない様に気を遣いながら取り押さえる。
一方の薫風に遠慮なんて文字はない。
殴る蹴るは当たり前、終いには自分を掴む腕に噛み付く始末。
これが先々「松の位」を期待された有望株とは到底思えぬ暴れっぷりだった。
実際、目の前で繰り広げられる廓の男衆と新造らしき妓の攻防に、男は唖然としていた。
だが、次の瞬間。
「あははは……!
一体、何だって言いやがるんだ?
こんだけ派手に暴れ回る妓も居やがるんだな。」
男は愉快そうに腹の底から笑っているようだった。
そんな男に今度は薫風を始めとする廓の面々が唖然とする番である。
見れば男は 大層美丈夫であった。
艶やかな黒髪は頭の高い位置で結わえられ、色白の顔は鼻筋の通った端正な顔立ち。
何よりも、その切れ長の目が印象的な役者と見紛うばかりの美丈夫。
そんな美丈夫が笑みを湛えていれば、新造遊女と言えど水揚げ前の未だ少女の薫風が目を奪われるのも必然だった。
どうせ水揚げされるなら、あんな爺ぃじゃなく こんな男がいい……。
そんな事は無理と分かっていても。
薫風の正直な気持ちだった。
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