Sugar Baby Love:(*`ノз´)ヒミツネ

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***  憂鬱な気分を抱えたまま、昼休みにお弁当を食べ終え、廊下の窓から外を見ていた。視界に映る仲よさそうなふたりの姿は、さらに僕の気分を憂鬱にさせる。 「困ったなぁ。ふたりの仲をキープしたまま、何とか問題解決したいのに。迷案ですら、思いつかないよ」  言いながらため息をついた瞬間、背中に温かいぬくもりをじわぁっと感じた。そして体に回される長い腕で、すぐに誰なのかがわかってしまう。 「こらこら吉川。目立つ往来で抱きつくなよ、まったく!」 「とか何とか言って、嬉しいクセに。少しは元気になったじゃん」  吉川は耳元で囁くように言うと、パッと体を放し、すぐ横に並ぶ。だけど窓ガラスに触れている僕の手に、ちゃっかり手を重ねてくれた。  ――嬉しいから、文句は言わないけど。ちょっとだけ恥ずかしい……。 「何を困ってるんだよ、学期末のことか?」 「えー、あ。うんと……それよりも難問かな」 「俺も同じく、超難問抱えてるんだぜ。ノリにお返しするホワイトデーを、どうしようかってさ」  それって、昨日の僕と一緒じゃないか。いいのか? 学期末を控えた男子高校生が悩むネタじゃないこと、気づいてないだろ……って、さっきこれに気がついた僕も、実は同じなんだよな。  呆れた眼差しで横にいる吉川を見ると、一層デレデレした顔をする。 (あ~あ、いい男が台無しだ……) 「バレンタインのときは、ノリが選んだものをプレゼントしたから、今回は吉川セレクションで、頑張ってみようかなって考えてるんだ。どうだ、楽しみだろ?」 「うん、楽しみにしてるね」 「何だよ、素っ気ないヤツ。他にも悩みがあるのか?」  デレデレした顔をちょっとだけ引き締め、ぐいっと顔を寄せる吉川に、思わず顎を引いてしまう。 「目が泳いでるぞ、何か隠してるだろ。もしかして他に、好きなヤツが出来たとか……」 「全然違うから。安心してよ吉川、そうじゃないんだ」  淳くんにバレなきゃいいよな。考えるならひとりより、吉川と一緒に考えたい。 「あのね吉川、絶対に淳くんにはナイショにして欲しいんだ。大隅さんから、きつく言われててさ」 「へぇ、淳にナイショなこと。何だか、ワクワクするんだけど」  校内で1・2を争うイケメンの吉川と淳くん。お互い競ってるワケじゃないけど、どことなくピリピリした感じはあった。 「ワクワクしないでよ、もう。大変なことなんだからさ。実はね、大隅さんが淳くんとの付き合いを、他の女子に恨まれた挙句に、嫌がらせの手紙を下駄箱に入れられてるんだ」 「何で、淳にナイショなんだ。酷いことされてるのーって、泣きつけばいいのに」 「そこが彼女の優しさなんだよ。デリカシーないな、吉川は……。心配かけたくないって言っててさ、放っておけばその内、諦めるだろうって、無視を貫く姿勢でいるんだよ」  切なく思いながら、窓の外にいる淳くんと大隅さんの姿をじっと見た。  ふたり並んでベンチに座り、教科書を開いて勉強中。大隅さんは何事もなかったように、優しい笑顔を振りまいている。  バレンタインデーで一気にふたりの距離が縮まったのか、淳くんが大隅さんのことを、大隅ちゃんに変えて呼んでいた。  大っぴらではないけれど、ああやってふたりでいることも、以前に比べたら増えている。でも付き合ってるといっても、公表しているワケじゃなく、僕の目から見ると、友達以上恋人未満って感じだ。 「いいよな。ああやって並んでるだけで、恋人に見えるんだから」 「何言ってるんだよ、それで嫌がらせされてるんだから。もう、いっそのこと、淳くんが恋人宣言して、誰も手を出すなとか言っちゃえばいいのに」 「宣言したところで、女子の嫌がらせが収まるとは思えないけどな。モテる男の彼女は、大変だな」  吉川の言葉に思わず、苦笑いするしかない。 「大変だよ本当。黙っていても向こうから、わんさか押し寄せてくるもんね」 「もしかして、妬いてるのかノリ」  嬉しそうな口ぶりで、つんつんと肩をぶつけてきた。こっちの苦労を知らないで、本当に楽しそうだな……。 「言い寄ってくる人数が多すぎて、いちいちヤキモチなんて、妬いてられないって言ってるんだよ」 「俺としてはさ、ノリに言い寄ってくるヤローを何とかしなきゃって、いろいろ考えててだな。密かに苦労をしてるんだぜ。最近以前にも増して、色っぽさに磨きがかかっているし、心配が絶えなくて」  はいはい、僕は軟弱で貧弱だから、女子にはモテませんよ! 色っぽいっていうのも、吉川だけに有効なワザに違いない。 「僕のことよりも大隅さんのこと、気にしてあげて。いつもお世話になりっぱなしなんだから、こんなときくらい、助けてあげたいと思わないのかい?」 「まぁな。でもどうやって、助けるんだよ?」 「そこが難題だって、さっきから悩んでるんだ。吉川助けてよ」 「ノリが渋い顔して悩んでる気持ちが、今頃わかってしまった。確かに難しいな、学期末の比じゃねぇよ」  ふたりして窓の外を見つめながら、今後の対策を考えたけれど、残念なことに何も思い浮かばず、そのままホワイトデー当日となってしまったのだった。
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