第8話

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 ビールをオーナーに出して貰ったため、それ以上壮真達に近づく必要はなかった。それにその流れでコの字型のカウンターにオーナーが壮真たち側、絢人がその反対側に立つことになったので、壮真と連れの男の様子は絢人の位置からはよく見えなかった。  それにしても、二人でやって来るというのはどういう意味なのだろう。一人なら誘いの意志あり、三人以上なら仲間の付き合い、しかし二人で来たというのはどう解釈するべきか。  注文が一段落し、空いたグラスを下げてスポンジで洗いながら、絢人はいつの間にか壮真のことを、この前の夜のことを反芻し出していた。先程は仕事脳が絶賛回転中だったから、壮真の顔を平然と見れた。けれど。 「ねえねえ、ケント君、ケント君ってば」思考を遮られて顔を上げると、常連の女2人組が絢人を呼んでいた。 「ケント君はさあ、まだ彼女出来ないの?」黒髪の女の方が絢人に先ほどから喋りかけていたらしい。 「すみません、洗い物に集中してしまって。……そうですね、全然出来ないです」 「……好きな子とかは?」二人のうちだといくらか若く見える丸顔の女がおそるおそる、と言った感じで絢人に問いかけてくる。 「いや、いないですね」絢人はそのことを恥じているかのように目を伏せて言った。 それに二人は口々に「ええ~」とか「信じられない」とか言って、笑いさざめいてくれる。 「告白されたりとかはしないの?」黒髪の方がなおも絢人を追求しようとしたとき、 「お話中すみません、お嬢様がた」とオーナーがやって来てくれ、絢人は心の中でほっと息をついた。 「お嬢様」という言葉に満更でもないらしい様子で二人はオーナーの方に顔を向ける。女というのは自分の声の大きさを過小評価している生き物のようで、絢人は彼女達がこのバーの従業員のことを品定めしているのを聞いたことがある。  曰く、黒髪の方は人生経験が豊富でなんでもリードしてくれそうなオーナー派で、丸顔の方はオーナーよりも絢人派――美少年系が好みなの、と彼女は言った――らしい。  樹生は名前が出たものの即、却下されていた。ちゃらそうだし、頭悪そう。後者は知らないが、前者は間違いがない。可哀想な奴。まあでも、奴はちゃらそうと思われたがっている節があるから、この結果は別に不本意というわけではないのかもしれないが。
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