第8話

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「うんうん、わかるよ。あれは良いラストシーンだよね。知ってる?あれって脚本の段階では元々、三時間の長編映画だったらしいんだけど、直前にそれを監督があえて二時間に編集したんだよね。そういう監督のセンスに俺は脱帽したね」山上は絢人の発言には適当な相槌を打って流し、勢いをえたのか滔々と自分の説を語り出した。壮真の友人だけあって映画好きらしいが、かなり話好きな男でもあるらしい。 「へえ、それは知らなかったな」壮真が言った。 「俺、編集前の完全版も観たことあるんだけど、やっぱ監督の編集は正しかったと思ったよ。なんていうか、想像の余地があるってことは映画にとって重要なんだ」と山上は壮真に向かって断言した。確かにその通りかもしれない、と絢人は思った。 「げ、もう行かなくちゃ。時間やばいわ」満足げに喋っていた山上が慌てたようにそう言い、 「では急いでお会計をお持ちします」と絢人が言うと、 「いいのいいの。今日はこいつの驕りだから」山上は壮真を指差して言い、 「ごちそうさん」と壮真の方を見てにやりと笑った。  そうか、じゃあ壮真は彼と一緒に帰らないのか、と絢人が頭の中で考えている内に、 「ああ、わかってるよ。んじゃあ、気をつけてな」 「おう。じゃあ、また来るよ」と山上は絢人にも声をかけ、慌ただしく去って行った。 「前にあいつと飲むときに財布を忘れて行ったことがあって、その時に奢ってもらったから今日はそのお返しなんだ」山上が出て行くと、壮真は言い訳するように絢人にそう語った。 「ああ、そうなんですね」絢人は相槌を打った。じゃあ、この男はいったい今日何故ここに来たんだろう、と考えながら。 「そういえば、あの時の約束って有効か?」頭の中でなかなか考えがまとまらない絢人に、壮真がさらりとした調子で言う。 「あの時?」 「この前一緒に映画観に行こうって約束しただろ」ああ、そのことなら覚えている。実現することはないと思って、忘れたふりをしていたけれど。 「ええ、覚えてます」 「じゃあ今度、絢人の都合の良いとき、一緒に行こう」壮真は言った。 「連絡するから、携帯のアドレスと番号を教えてくれ」  絢人の連絡先を訊き、更に一、二杯飲んでから壮真は「明日、朝早いんだ」と言って帰って行った。絢人は嬉しいような拍子抜けのような気がして壮真を見送った。
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