第1話

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いい震災だった。 間もなく発生から3年を迎える東日本大震災をふり返り、筆者はこう思った。 こんなことを書くと非難されるだろう。当たり前だ。しかし筆者に、あるいは筆者の家庭環境に照らし合わせれば“いい震災”に違いなかった。 実家は、福島県内の某所でコンビニエンスストアを営んでいた。それまで個人商店で生計を立てていたが、父の一存で某コンビニチェーンに加盟した。 この父の判断は成功した。世間はまだバブルの燃えカスがくすぶっていた。ロードサイドということもあり、多くのお客さんが来てくれた。両親は筆者が3浪しても大学に行かせてくれた。アルバイトをしなくても十分なほどの仕送りをしてくれた。6年も在籍していたのにもかかわらず(その大学はのちに中退した)。その後2人の弟も大学に通わせた(弟は現役で入学し、4年で卒業している)。 筆者は中退後帰郷し、店の手伝いを始めた。接客は死ぬほどイヤだったが、大学6年在籍中退の人間が文句を言えるはずもない。毎日何の目的もなく、淡々と過ごしていた。 時は過ぎバブルの影はとっくにない。大学入学時に同級生だった友人(とっくに疎遠になっていたが)は「就職氷河期」とかロスジェネ、ロストジェネレーションなどと呼ばれる時代を過ごしていたはずだ。世間は景気がどん底になり、我が家の経営もどん底になった。幹線道路を走る自動車はめっきり減った。家庭の財布のひもは固い。それに加えライバル店が少し離れたところにできた(つづく)。
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