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目が覚めると、携帯電話を片手に机に突っ伏していたことに気付いた。机上の時計を見ると、普段より1時間も早い。少し蒲団の中に入って温まろうと椅子から立つと、肩からグレーのパーカーが落ちた。
「……もう、起きたの」
二段ベッドの下の段から、寝惚けた声が聞こえる。
「……まあ、寝れなくてね。寝落ちしてた」
「ふーん」
今にも再び眠りに落ちそうな声を聞きながら、細い梯子を上って蒲団に潜り込む。普段は二度寝してしまうけれど、今日は無理に眠ろうとしてもなかなか眠れない。
「同じクラス、なれたらいいね……」
下の段からくぐもって聞こえた声には、返事をすることが出来なかった。
結局蒲団にくるまったまま目覚まし時計が鳴り止むのを聞き、普段通りの時間に朝食をとり、いつもと同じように家を出る。いつもは盛り上がる会話も適当に相槌を打って聞きながら歩き、バスに乗った。
しばらく座って窓の外を眺める。自分たちが乗ってから7つ目のバス停、いつもたった1人が乗り込む。自分たちはいつも後ろから2番目に並んで座り、彼はいつも前の1人席。小声で話しながら彼を見ると、いつも下を向いてスマホをいじっている。時々振り返る視線は、いつも自分のすぐ横に吸い込まれていた。
学校近くのバス停に降り、人波に紛れて並んで歩く。気付くといつも彼も並んでいて、それでも会話するでもなくて。今日も同じように黙ったまま並んでいた。
昇降口に張り出されたクラス替えの小さな表を見る。自分のクラス、自分の番号の7つ前。中学の時からずっとそこにあった彼の名前は、今年はなかった。隣のクラス、もう一人の名前の上を見ると、7つ前に彼の名前。
「……残念、でした」
人知れず呟く声は、登校時間の喧噪にかき消された。
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