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僕は祖父の日記を最後まで読み、日記を閉じると勘治の資料もまとめて鞄に入れた
祖父のお墓に行き、その足で電車に乗り込む
勘治の頃には十何時間掛かった朱星の村の道のりは、現在では3時間を切る程度になっていた
祖父は戦争を生き抜き、戦後を乗り越え、実直な性格で役場の仕事を得ると親戚に薦められるまま祖母と結婚。3人の子を育てあげた
夢中で生きた人生にぽかりと穴が開き朱星の存在を思い出したのは、四十を越えた辺りだったか
祖父は家族に内緒で勘治がほんの少し洩らした朱星の住んでいた島の話と、朱星からほんの少し聞いた情報を頼りに朱星を探し出す事に成功したのだ
日記には何も書いてないので、朱星と祖父の間にどんな感情があったのかは解らない
しかし、祖父は年に一度、必ず朱星に会いに出掛けていたようだった
そして丁度、今日が朱星と会う約束の日だ
祖父の日記に書いてある場所に行ったところで朱星の顔を僕は知らないし、朱星も僕の存在を知らないから会えないかもしれない
けれども、僕は祖父の為に何かしてやりたかった
生前の祖父は無口で真面目を絵に描いたような人としか見れなかったが、それは祖父のほんの一面でしかなく、その内側にもっと熱い物をずっと隠し持っていたのだ
そして多分、祖父は朱星の事をずっと好きだったに違いない
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