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祖父の日記に従い、目的地へと向かう
電車を降りた時から既に潮の香りが微かに漂い、海の近くへ来たのだと感じる
朱星が生まれ育った島がよく見えるちょっとした公園に入ると、そこに垢じみた服を着た老婆がぼんやりと島を眺めていた
「……もしかして。朱星……さんですか?」
祖父の日記には再会した朱星は、以前と何も変わっていなかったと書かれていたので、年を取らないままの姿で現れると信じていた
僕もうっかり人魚伝説に引っ張られていたようだ
祖父は朱星の中に変わらない部分を見つけたのだろう
老婆は何も言わず、僕の方をじっと見詰める
「祖父が……。あ、僕の祖父は昭之と言うんですが、先日急逝しまして……」
「死んじまったのかい」
老婆はツイと島の方に目を戻した
「で、祖父の遺品整理をしていましたら、朱星さんに渡しそびれていたらしいモノを見つけましたので、祖父の代わりに持って来ました」
朱星は聞いているのか聞いていないのか、チラリとだけ僕が差し出した祖父と勘治の日記の入った紙袋を見ただけで、何も言わなかった
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