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僕は持ってきた紙袋をどうしてよいか解らず宙ぶらりんな状態のまま、とりあえず気になっていた事を聞く事にした
「……あの、朱星さんは勘治…さんの言ってたような人魚なんですか?というか、なぜ勘治さんだけ遺体が綺麗なままだったのですか?」
老婆はじっと島を見詰めている。僕も老婆から目を離し島を見た
「あの島には、もう誰も住んどりゃせんわ。あの事件の後、皆海に帰ってしもうた」
島は泳いで行けそうなほど近く見えたが、きっと思っているより遠いのだろう。波が白く小さく泡立つのが見える
「人魚はどんなもんと聞いた?」
老婆の声はかすれていたが、僕の耳にしっかりと届いた
「人魚は年を取らず不老不死。気性は獰猛で人肉を好む。海の中でも海の外でも呼吸が出来、魚と同じくらい早く泳げるうえに、人間の数倍の怪力を持つ。人魚の肉を食べれば、食べた人は不老不死となる」
教科書の丸覚えのような回答に老婆の顔が少し和らぐ
「それだけ知っていたら充分じゃないのかい?」
「僕は真実が知りたいのです」
僕の真摯な訴えに心を打たれた訳ではない気はするが、老婆は勘治や祖父から語られなかった物語を語り始める
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