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「……ははっ。僕もすっかり『慣れた』ってことなのかな」
ぼーっとしていた顔を急に綻ばせ、シャドウは自嘲気味に言う。
これが悔やむべきことか喜ぶべきことなのか、彼にはわからなかったのだ。
いつからか、彼はもう人を斬っても昔のように気分が悪くなることはなくなっていた。
何人斬っても吐き気はしない。何人斬っても全身に滾った力は抜け落ちない。
もう、どうやったらあの感覚を味わえるのか、わからなくなっていた。
それは、シャドウがもう傭兵としてすっかり一人前になっていることの確かな証明だった。
「は? 何言ってんだ、お前」
シャドウの名を呼び、彼を記憶の世界から連れ戻した張本人であるガロンは、軽く嘲笑するようにして返した。
しかめっ面をして顎の無精髭をいじりながら、目の前の青年を見つめる。
「なんでもないよ、ガロンさん。さて、ここはもう終わったっぽいし帰ろうぜ」
怪しそうに自分を見つめるガロンに振り返り、笑みに綻ばせたままの顔でシャドウは言った。
と、同時に剣を一回振り払う。付着していた血液が数滴、地面に飛び散った。
その様子には目もくれず、シャドウは流れるような動作で鞘に刀身を収めた。
「お、おう」
曖昧なまま濁されたガロンとしては少々ばつが悪かったが、特別気になるようなことでもない。
うなるような声でとりあえず同調し、ガロンも一息つく。
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