【彷徨う影】

6/38
前へ
/47ページ
次へ
 昔、シャドウが聞いた話によれば、どうも国に仕える兵士と傭兵は基本的にどこも仲が悪いものらしい。  兵士団は国に忠誠を誓い、生きる。戦争となれば、国のために命を投げ捨てることを厭わない。  むしろそれを悦びとする者もいるほどである。  対して傭兵団は国から金で雇われているだけの身で、忠誠心の有無はあまり問われない。  ……無論、戦争においては全力を尽くす点では兵士と何も変わらないが。  忠誠心があろうがなかろうか、戦場では生きるか死ぬかの二択でしかないのだから。  両者の仲がよろしくないのはそういうことらしく、この軍においてもそれはしっかり適用されているということだ。  そしてその場合、特に兵士から傭兵へ対する嫌悪感がとても大きいらしい。  傭兵は兵士に対して恨みはないが、兵士からすれば「金で雇われているだけの賊共め」というわけである。  今、傭兵達が自分から列を外れたのも、単にそういった兵士の視線のせいで居心地が悪いためだ。  ──ましてや、シャドウのようなフリーの傭兵業を営む者のことなど、兵士が受け入れてくれることはまずあり得ないだろう。  フリーの傭兵ということは、兵士どころか同業者である傭兵諸君から見ても文字通り『敵となり得る存在』なのだから。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加