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尚哉の方からそんなことをしてくるのは、初めてで、奈緒子は驚いた。
きつく抱きしめながら、耳元で囁く。
「……奈緒子の頭から、あいつの記憶、
吹っ飛ばしたかったから」
ーーー遊園地で過ごしたあの一日。
お互い、友達以上に膨らみかけた感情を隠して、別れたのは確かだった。
高校2年生だった2人は、想いを通わせることが出来なかった。
なぜなら、奈緒子は尚哉の兄恵也の
元恋人だったから。
「もう何も気にすることはない…
奈緒子……これからはずっと一緒にいよう。すっと一緒に生きよう……」
尚哉は奈緒子の唇を求め、公園の片隅で2人は濃厚なキスを交わした。
今までキスを仕掛けるのは
奈緒子の方だった。
初めて、尚哉の方から奈緒子の唇を求めてきたことに、奈緒子は胸が一杯になる。
(少し尚哉の眼鏡が邪魔……)
尚哉の腕の中で、奈緒子は思った。
初夏の夜の公園で。
奈緒子はもっと1つになりたくて、尚哉のスーツの背にしっかりと手を廻す。
そして、初めて、尚哉は舌を奈緒子の口に差し入れてきた。
……優しくゆっくりと。
温かな尚哉の舌の感触を味わいながら、ふと奈緒子は窒息しそうな錯角にとらわれる。
まるで、水の中で溺れるような。
……こんなに優しいキスなのに。
でも、尚哉のキスが優しかったのは、この時だけだった。
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