209人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
~千雪視点~
もうすぐ月が真円を描こうとしている夜。
夏のうだるような暑さが和らぎ、秋を感じさせる心地よい風が私の頬を撫でた。
私は十鬼さんと一緒に縁側に腰掛け、お茶を啜りながら静かな夜を堪能していた。
仕舞風呂から上がり、廊下を歩いていたら偶然会った十鬼さんに、一緒にお茶を飲まないかと誘われたのだ。
まだ少ししか経っていないのに、湯上りで温かかった髪がすっかり冷たくなっている。
十「大分涼しくなってきたな」
十鬼さんが呟く様に言った。
千「そうですね。この前夏が来たと思ってたんですけど、もう秋になるんですね。一年があっという間です」
十「だな…。楽しい日々はあっという間に過ぎていく」
どこか憂いを帯びた声に私はチラッと隣にいる彼を見る。
十鬼さんはお茶を飲みながら月をぼんやりと眺めていた。
私は思わずその姿が儚くて綺麗だと思った。その姿をじっと見ていると十鬼さんと目が合い、すぐに逸らしてしまう。
十「なに?」
千「いっ、いえ。なんでもありません」
十「ふ~ん」
見なくても分かる。十鬼さんは今、イジワルな笑みを浮かべてるんだ。
十「千雪」
名前を呼ばれて再び彼を見ると、十鬼さんは膝上をトントンと指で叩いていた。
その仕草に私は頬が熱くなる。
千「あの…十鬼さん…」
十「ここにおいで」
この頃、十鬼さんはよく私を膝の上に乗せたがる。どうやらこれが最近のお気に入りらしい。
私は彼の膝の上に乗るのが嫌じゃない。むしろ十鬼さんを近くに感じる事が出来るから好きだ。
でも、やっぱり恥ずかしいから‥いつも躊躇してしまう。
最初のコメントを投稿しよう!