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「お願いを聞いてもらったお礼に、谷川先生に渡して欲しいって頼まれたんです。……でも別に、南先生に何にもお願いされてませんよね?」
「のぉぉぉぉーう! お願いされました。すごくお願いされました。ボクは南先生に!お願いされてました」
「さっきと言ってる事が違うじゃん」
すかさず三木杉クンのツッコミが入る。
「うるさい、部外者は黙ってろ!」
……いや、彼は関係者です。 っていうか、完全な被害者じゃないですか。
「ふじよしぃぃ。 先生、監督代理を頑張ったじゃないか……」
……頑張ってません! 準備室で採点してただけです!
「なあ、ふじよしさぁぁん。先生、そのチョコレートがとっても欲しい!」
じりじりと谷っちがにじり寄ってくる。
迫り来る恐怖に、思わず後ずさりした。
「頼むよぉぉ。……何なら、筋肉芸でも見せましょうか?」
……い、いりません!! そんなもの見たくないです!!
ジャージの上着を脱ぎ始めた先生を、慌てて止める。
「わ、わかりましたって!! 袋に入れますから待っててください!」
とりあえず、目の前に迫る谷っちを押し戻し、南ちゃんのチョコを袋詰めする。
輝いた目で待ちわびている谷っちを目にしたら、南ちゃんのチョコが何だか羨ましくなってきた。
……同じチョコなのに、私のはだれにも欲しいと言ってもらえない。
そう思うと切なさが募る。
南先生のチョコレートを手渡すと、普段は絶対見せないような笑顔で谷っちが喜んだ。
「よーし、三木杉! 教室に戻って進路指導だ!」
意気揚々と出口に向かう。
「え! 今からですか?」
驚いたのは三木杉クンだ。たしかにもう随分時間が遅い。
「心配するな。お前は優秀だから、3分で済む」
「え、そんな短時間だったら、いっそやめませんか……」
「バカ者! そんないい加減な事ができるか!」
……いい加減キングがよく言うよ。
そうツッコミたかった。
「えええぇ……。 もう、わかりましたよ」
同じ事を思ったのだろう。
三木杉クンが納得いかない顔で、渋々了承した。
「いくぞ!!」
そんな彼にお構いなしで、ご機嫌な谷っちがスキップしながら部屋を出て行く。
ところが、了承したはずの三木杉クンが、その場に立ち尽くしたまま動こうとしない。
「……どうしたの? 行かないの?」
心配になったので声を掛ける。
「あのさ」
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