おねだりチョコレート

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急に目が合ってドキリとする。 三木杉クンも慌てて目線を逸らした。 「藤吉さん、明日、雪が降るって知ってた?」 「雪? え、ホント?」 「……うん。かなりの大雪っぽい」 「そ、そうなんだ。……どうりで寒いと思った」 いまさらなぜ天気の話などするのだろう? よくわからないまま話をあわせる。 「で、明日さ、バレンタインどころじゃなくなると思うんだ」 なるほど……そうか、みんな大変だな。 1年に一度しかないイベントなのに、大雪だなんて可愛そう。 すでにイベント不参加が決定しているので、他人事のように思う。 「でさ……」 ……で、何? その先を、三木杉クンが言いためらって俯いた。 沈黙がしばらく続いたが、彼が何か吹っ切ったように突然顔を上げる。 「あの、だから、さ。……今、もらえると……嬉しいんだけど」 「え?」 たどたどしい口調もあって、言ってる事が理解できなかった。 「……そのチョコ……すごく美味しかったから。……明日、俺にくれる予定だったんなら ……今、欲しい」 理解した瞬間、私の身体が固まってしまった。 そのまま返事ができなくなる。 「……藤吉さんのチョコ。……もっと食べたい」 三木杉クンの顔が真っ赤に変わっている。 だけど多分、私はもっと赤いだろう。 「こらぁ、なにやってんだぁ!! 三木杉、早く来い!!」 廊下の向こうから、谷っちが叫んでいる。 タイミングが最悪だ……。 「……んだよ。自分は散々待たせたくせに!」 間の悪い谷っちに、三木杉クンが顔をしかめた。 私はと言うと、腹を立てる前にすごく慌てていた。 このまま彼に部屋を出て行かれたら困るからだ。 「三木杉クン! ちょっとだけ待って! す、すぐにラッピングするから」 ありったけの勇気を出して、そう告げる。 眉間にシワを寄せていた三木杉クンが、軽く驚いた後、ニッコリ笑って頷いてくれた。 ホッとしたのもつかの間、慌てふためきながら自分のカバンの中を探る。 そう、プレゼント用の箱もちゃんと用意していたのだ。 バレンタインチョコだから当然である。 「あの!」 三木杉クンに呼び止められて、動作が一旦ストップする。 やめて! 急ぐからいらない……なんて言わないで!!
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