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一見、人気者のカオルちゃんにお菓子を渡す方が大変そうに思えるが、そこは神の奇跡!……カオルちゃんは私の幼なじみでもあったのだ。
幼稚園からお隣さんなので、特に意識する事もなく、お菓子ぐらいなら私でも渡せた。
しかもカオルちゃんは、いろんな女の子からひっきりなしにプレゼントを貰っているモテ男子なので、なんの疑いもなく流れ作業のようにお菓子を受け取ってくれた。
……三木杉クンと一緒に食べて。
そのお願いに裏があるなんて、カオルちゃんはこれっぽっちも思っていないだろう。
単純な性格である彼を、この時ほど感謝した事はない。
神様、仏様、カオル様である。
そんな私を滑稽に思ったのか
「そんなメンドクサイ事せずに、三木杉に直接渡せばいいのに」
と、菜摘ちゃんに何度か指摘された事がある。
だけど、菜摘ちゃんは全然わかっていない。
三木杉クンに直接渡すなんて……考えただけでも恐ろしかった。
だいたいそんな事をしたら、三木杉クンに想いを寄せる浮ついた女子だと誤解されてしまう可能性がある。いや、誤解じゃないけど、そう思われるのはとてもイヤだった。
中学二年生の女子に、そのレッテルはかなりイタイ。
しかも、クラスのみんなにバレるような事になったら、恥ずかしくて二度と学校に行けなくなってしまう。
それに、三木杉クンにまで迷惑が掛かったら……。
そう思うと絶対渡せなかった。
そうやって勇気を持てないまま、気づけば一年が過ぎていた。
だけど、バレンタインは特別な日。
結局、なんだかんだと菜摘ちゃんに説得されて、ありったけの勇気をふりしぼって頑張る事になったのだ。
だけど、まあ、三木杉クンにとって私は、あくまで親友の幼なじみ。
友達にもなれないトコが悲しいけれど、そこは、アレ……超えてはいけないデッドラインだと心得ている。
「部活で作ったから……どうぞ」
声に出して練習してみる。
大丈夫、友達未満だ。……なぜか自分に言い訳を重ねた。
そんな奇妙な独り言を繰り返していたせいか、突然のノックにびくりと身体が揺れた。
振り向くと同時に、調理室のドアがゆっくりとスライドされる。
開いた扉の向こうに、驚くような人物が立っていた。
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