おねだりチョコレート

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「誰かに味見して欲しかったの……。よかったら、食べて」  今度はなぜか、緊張せずに言えた。 しかも、ぎこちないなりにも笑顔をプラスできたのだ。すごい進歩である。 そのせいか、二人の距離が縮まった気がした。 何か思案している様子の三木杉クン。 アゴに右手をあててチョコレートをジッと見つめている。 「俺なんかで……いいの?」 ……あなたに食べて欲しいんです! とは言えないので、何度も頷いて勧めた。 「……じゃあ、いただきます」 遠慮がちに、ショコラ・オランジェを手に取る。 「うわぁ……キレイだね……」 見た目の感想を一言述べて、三木杉クンが口に運んだ。 ……カンゲキだ。 私の作ったチョコを、三木杉クンが目の前で食べてる。 それだけで思わず泣きそうになったが、大事なのはここからだ。 実はこれまで、三木杉クンにお菓子を食べた感想をもらった事がなかった。 「美味しかった」はもちろん、「ありがとう」さえ言われた事がない。 私のお菓子をどう思っているのか、これまでずっとヤキモキしていたのだ。 「あの……どうかな?」 思わずこちらから、感想を催促してしまう。 「うん。……びっくりするぐらい美味い」 いつもクールな瞳が、真ん丸になって驚いていた。 こんな顔もするんだと、胸がキュンキュンいう。 今日はいろんな表情の三木杉クンに出会えて、お腹がいっぱいだ。 「いや、あの、なんか、月並みな事しか言えなくて……ごめんね」 三木杉クンが困った様子で謝ってくる。 だけど、美味しいに勝る言葉なんて何もない。 私はすでに有頂天になっていた。 「こっちも食べて。 これはキャラメル風味なの……」 調子に乗って、もう一つのお菓子も勧める。 三木杉クンにいっぱい食べてもらいたい。 私のお菓子で、ペコペコなお腹を満たしてもらいたい。……そう心から願った。 「ありがとう。 いただきます」 三木杉クンも、遠慮が薄らいでいた。 甘いチョコレートが、二人の距離をさらに縮めてくれたみたいだった。 「あ、……俺、こっちの方が好きかも」 ……きゃうぅぅ。 幸せってこういう事を言うのですね。 最上級の幸福感を噛み締めた。 「なんか、郁が自慢するのが分かる気がする」 「カオルちゃん?」 突然、ここに居ない人の話題が出てきて戸惑った。
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