おねだりチョコレート

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「うん。……藤吉さんは、自分の専属パティシエだって吹聴してるよ」 ……な、なんてこと! カオルちゃんのバカ!! 何を言ってるんだ。 「ち、違うから、全然違うから!!」 慌てて訂正を入れた。 不必要に仲良しだと思われるのは心外である。 「うん。わかってる」 よ、よかった。 誤解はされてないようだ。 「女性はパティシエールって言うべきだよね?」 ……ちがーう!! 訂正したいのはソコじゃない! このさい、シエでもシエールでもどっちだっていい。 私は「専属」という言葉を取り消したいのだ。 そう伝えたいのに……上手く言葉にできない。 もぉ! カオルちゃんのバカバカバカ!! とりあえず、頭の中で幼なじみを罵っておく。 「初めて藤吉さんのお菓子を食べたけど、ホントにプロみたいだね。驚いた」 ……は、初めて? せっかく褒めてくれたのに、そのキーワードのせいで素直に耳に届かなかった。 「あ、の、カオルちゃんから……もらった事……ない?」 「え? ナイナイ。 嬉しそうに一人で食べてたよ。欠片もくれないんだもん」 衝撃の事実だった。 あんなに「三木杉クンと一緒に食べてね」ってお願いしたのに。 ヒドイ……酷すぎる。 どうりで三木杉クンから、何の音沙汰もないわけだ。 そういえば、幼稚園の頃からカオルちゃんは、人一倍の食いしん坊だった。 大きくなって普通に戻ったと思っていたけど……変わってなかったようだ。 自分の観察眼の甘さに愕然とする。 「多分さ、コレ、喜ぶんじゃないかな?」 「え?」 思考があちらへ飛んでいるなか、突然話しかけられてびっくりする。 見ると、三木杉クンがショコラ・オランジェを指さしていた。 「郁さ、オレンジ好きじゃん。 コレ、絶対に喜ぶと思うよ」 笑顔で言われて、へたり込みそうになった。 三木杉クンの完全な誤解に、気持ちが折れそうになる。 「……カオルちゃんには、あげないよ」 「……え?」 やっぱり驚いた顔を向けられた。 「カオルちゃんの為に作ったんじゃないもの……」 「ええ!! どうして? ……アイツ、がっかりするよ」 親友の心配ばかりする三木杉クンに、何だか腹がたってくる。 私の気持ちはどうなるんだ。 私は三木杉クンを喜ばせたくて、頑張って手作りチョコを作ったのだ。 思わず泣いてしまいそうになったが、ひたすらガマンした。 こんなところで泣いたら、三木杉クンに迷惑がかかる。
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