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「授業始めるよ」
澄んだ声。
男の声なのにずっと聞いていたい。
目を閉じて頭の中でリピートさせる。
「じゃあ、この前の小テスト返すね」
教壇に立って一人ひとりの名前が呼ばれていく。
「渡辺ー」
「ほーい」
ふざけた返事をしながら軽快な足取りでプリントをもらいに行く。
鼻歌なんか歌ってしまいそうになる。
「渡辺、返事は?」
優しい瞳があたしを除き込む。
その仕草があたしの熱を上げる。
「へい、らっしゃい」
「うん、違うね」
くすくす笑いながらプリントを手渡される。
「渡辺、今回も頑張ったね」
「命削りましたー」
「そっか、そっか。それは大変だ」
頭を軽くぽんぽんってされる。
これはこの先生だから許されること。
他のおっちゃん先生にされても鳥肌がたつだけ。
そう、先生だけ。
彼だけがあたしの心を動かす存在。
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