循環人間。

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12/1 「先生、わたし死にたくないです」 「……そうだね、何故だい?」 目の下に紫斑のような隈を窶れた先生は押さえた。呆れられたのだろうかと、目を伏せた。 独特な鼻の粘膜に染み込む薬品の臭いをした白衣。骨ばった手がわたしの頭に被さる。 「わたし、死ぬのが怖くて怖くて。執筆中指を原稿用紙で切ってから、どうにも出来なくて」 「そうかい、君は何を書いているのかな?」 「推理小説です、狩猟的な場面を書いてて、指を紙で切って……」 わたしの人差し指に巻かれたガーゼを見た先生はゆっくり頷くと、手を引いた。簡潔な回転椅子の軋み音に合わせて肩をわたしに見せる先生。 机の上の紙を一枚手に取り、もう片方の手で顎を擦る。 「狩猟的な場面を書いていた時に怪我をした。恐らくはその被害者と無意識下で共鳴したんだろうね、執筆業は徹夜したり人と関わらないから軽く感覚が麻痺していたんだと思う」 紙をわたしに向けた先生の顔を、上目に見据える。触って克服しろと言うのだろうか。仕事詰めで疲れていただけと先生は言うが、わたしは紙に触れたら直るのだろうか。 「さ、触って、良いですか?」 「勿論、触って貰いたいね。触れたら分かる。今まで関係ない恐怖を感じていたと理解出来るよ」 意を決して、先生の持つ紙に指を伸ばす。重力により垂れた紙に近付くにつれ、掌は湿り、油っこくなるのが分かる。
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