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頭がくらくらして逆上せたみたいだと思った。指先で、爪先で紙をつつく。
「先生ね、実は君みたいな子を何度か診てるんだよ。一人は拒食症で、自身の身体に自信がなかったんだ。でもね、その子はただそう思っていただけで、痩せていたんだ」
「は、はあ……」
先生の突然な話に手を止めていれば、続けてと促すので紙に指紋を張り付けて、息を呑み込む。
「食べ物に恐怖を抱いていたその子は思い込みから脱却出来て徐々に体力を回復したよ」
「せ、先生も随分と痩せていらっしゃいますが……」
我慢我慢と念じて紙に丸を描きながらに言葉を向ける。先生は少し笑みを深めた。
「そうだね。この職業は色々抱え込んだ子と話すから、ちょっと先生疲れてるのかも知れないね」
ちょっとで済ませる疲れ方ではない、わたしにはそう見える。実際カウンセラーに救われた人間は多いが、カウンセラーが救われないケースも多い。心労が溜まり、吐き出す場所もない時、救うつもりが救われなければならない立場に鞍替えしたり、最悪自殺して仕舞う場合もあるのだ。
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