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わたしは職業柄そう言った部分には詳しいと自負している。
紙に丸を十回描いた所で先生が紙を離す。唐突に落ちた紙に慌てて手を伸ばして掴む。
「ほら、触れたね。今、怖いと思わなかったから掴めたんだ。知りもしない恐怖は知らなくて良い、勘違いは正してなんぼだよ」
確かに、ただ落ちるからと咄嗟に紙を掴んでからまるで嘘のように紙が怖くなくなった。カウンセラーに来た当初、治らないとばかり思っていたわたしはなんの特徴もない紙を物色する。
「はあ、その、執筆出来そうです。編集者が煩いので早く残りの原稿を書かなきゃ駄目ですが……有り難う御座います、先生」
紙を先生に返せば、記念にあげると言われ、特に必要はないものの受け取った。わたしは改めて先生に向く。
「治って良かったね、じゃあ気を付けて」
先生の疲れた笑顔にわたしは感謝と一礼を返した。
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