北千住で

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「やられた」 男は思わず零した。 休日の昼飯を買いに行こうと自転車で繰り出してみたが、ちょうど孤立感を味わう結果になってしまった。 「これはどこにも行けない?」 引っ越してきて間もないから、細かいことはわかっていない。辺りを見回し、電車が過ぎ去るのをひたすら待つだけだ。 しかし、そう言う時に限って目の前で電車が止まってしまったりする。 「マジか?!」 口をあんぐりと開けた。 そんな男の視界に一人の女の子が目に入った。 「嘘でしょ」 スマホを手にし、時間を気にしている。リクルートスーツらしきものを着ているから、どこかに面接に行くのだろう。 「間に合わないよ」 もう5分も電車は止まっている。何かあったのだろう。時間ぴったりに着くようにしていたなら、間に合わないのも頷ける。 彼女はその場で足踏みをし出した。少しでも前へと言う気持ちの表れだろう。 「あの・・・」 別に彼女が好みだとか、そんなことは一切ない。どちらかと言えば地味めな彼女。男の趣味からはかけ離れている。それでもあまりにも困り果てた表情に男は声をかけていた。 「は、はい」 「あの、もしかして急いでます?」 「はい。こ、これかれ面接なんです。なのに、踏切が開かなくて。ここっていつもそうなんなですか?」 「うん、わりとね。時間間に合いそう?」 「うーん、道に迷っちゃって。なんか、反対の方に降りなきゃいけなかったのに・・・。このままだと間に合わないです」 泣いてこそいないが、このままだと泣くのは確実だろう。 「後ろに乗りなよ。ほら、後ろの踏切は開いたから。グルッと回っても自転車なら間に合うでしょ。どこまで行くの?」 彼女は素直にスマホを見せた。 思った通りだ。自分で言っているのは間違っていなかった。逆、つまりは東口を降りている。彼女が向かおうとしているのは、西口の、それも国道沿いだ。駅から割と歩く。 「ここだね。じゃ、乗って」 踏切の先にはすぐ警察があるが、迂回するから二人乗り咎める者もいない。 「はい、ありがとうございます」 彼女はどうやら、相当華奢らしい。乗せていないかのように軽やかにペダルが漕げる。 どこまでも、どこまでも漕いでいたい。男がそう思っていたかはわからない。でも、彼女は思い始めていた。その証拠に一心不乱にペダルを漕ぐ男の顔をずっと見つめていた。
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